道草映画批評4「レヴェナント 蘇えりし者」

レオナルド・ディカプリオが主演でオスカーを取った。いい演技だ。19世紀、アメリカイエローストーン公園のあたりの冬の大自然が舞台。ディカプリオ演じるグラスが、クマに襲われてけ大怪我をする。クマに襲われるシーンは圧巻で、グリスリーの動きは本物にしか見えないし、ディカプリオも本当に襲われているようにしか見えない。怪我をした後の彼のサバイバル行程も本当みたいでよい。厳しい自然の中でのグラスの所作一つ一つは、持っている自然への造詣や積んできた経験を感じさせる。アウトドア好きの私は、見惚れてしまった。また、この映画は映像が美しい。どのシーンをとっても芸術写真のようである。

ただ、一点この映画で残念なところがある。ディカプリオ演じるグラスと彼の息子が全く似ていない。もちろん映画なので、似ていなくてよい。レイダーズで親子を演じた、ハリソンフォードとショーンコネリーは似ていない。でも、観る人は2人を親子として見る。二人とも同じ白人だし、まあ、年も近いが、親子と言えなくはない。レヴェナントでは、グラスの息子ホークはネイティブ・アメリカンの女性との間に生まれた混血の設定だ。しかし息子の役をした俳優の顔には白人の面影はなく、全くのアジア系の顔だ。養子の設定ならいいが、ネイティブ・アメリカンの娘と恋に落ちて生まれた子供というのが、この映画の設定で大切なところで、血がつながっているように見えなければ面白みは半減だ。気になったのはたったこの一点だけでだったが、この一点で私はこの映画のストーリーがどうも嘘くさく思えて、全体がなんだか白けて見えてしまった。

一点ですべてオジャンということは世の中に多い。中学生だったころ母から、「そんなに爪を伸ばしていたら、100年の恋も冷める。モテないよ」言われ慌てて詰めを切った。大人になって、付き合おうかと思っていた人と確か恵比寿のウエスティンホテルのバーに飲みに行って、カウンターに座り、彼女の顔を近くで観たら、少し鼻毛げ見えて、その瞬間急に幻滅して、その後付き合うのをやめてしまった。

爪は日ごろから清潔を心がけていれば伸びはしないし、鼻毛も美容に気遣っていれば鼻からはみ出たりしない。映画監督も細部にこだわって映画を撮り続けていたらそれが習い性になって、違和感のあるシーンとか辻褄が合わない場面を作ったりはしない。一見きっかけがことを起こしたように見えても、実はそのきっかけに至るまでに、ことが起こる準備は万端整っている。長年の怠慢の澱が、噴火寸前のマグマのようにたまっていて、マッチ一本で爆発するのだ。

コロナウィルスの感染拡大の経緯を予言したような映画、Sソーダバーグの「コンテイジョン」では、人類の危機はたった一人の感染から始まる。野生のコウモリのウイルスが家畜の豚に移り、その豚を料理した料理人からギゥィネスパストロウ演じるアメリカ人旅行者に移り彼女はシカゴで元彼と不倫して、死のウィルスが世界中広がっていく。現実のコロナウィルスの拡大を見るようだ。果たして、今現実に起きている危機は偶然なのであろうか?

サピエンス全史の著者ユヴァルノアハラリが彼の全著作を通じて力説しているのは、畜産は地球の支配者だと勘違いしたホモサピエンスのエゴであって、実は哺乳類の仲間である家畜達に大変な苦痛を与えているという事実だ。自然の生態系全体をみると極めて不自然である畜産を、もし人類がしていなければ、今回のコロナの流行は起きていない。この危機が示唆するのは、地球を長年我が物顔に凌辱し続けた、人類の傲慢が澱のようにたまりに溜まった所に神仏がお灸を据えたとも見える。

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ソシュール理論による外国語学習法

英語が全く駄目だった筆者が言語学者であるソシュールにヒントを得て生み出した2年でTOEIC900点をめざせる全く新しいアプローチの外国語取得方法を紹介します。

髪林孝司プロフィール

髪林孝司

髪林孝司:
システム経営コンサルタント
職歴:
株式会社リクルート
(住宅情報事業部)
株式会社テレビ東京
(経理部、営業部、国際営業部、編成部、マーケティング部、イ ンターネット部などを歴任)

2001年
テレビ東京ブロードバンド企画設立
代表取締役社長就任
(主要株主;テレビ東 京、NTT東日本、シャープ、NECインターチャネル、集英社、角川ホールディングス、 小学館プロダクション、DoCoMoドットコム、ボーダフォン)

2005年
同社東証マザーズ上場

2006年
インターエフエム買収
代表取締役社長就任(兼任)
11年連続赤字累損22億の会 社を1年で4000万弱の黒字会社にターンアラウンド

2008年6月
テレビ東京ブロードバンド取締役退任

趣味:
ロードバイク
中華料理(家族の食事は私が作っています)
タブラ(インドの打楽器)