Q7.目標達成の為、大幅な権限を社員に委譲していますか?
2009-08-01 (土)
さて社員一人一人や末端事業ユニットの権限に話に移ります。いくら自分で立てた目標でも、それを実施する際、それ相応の権限がなければ、やる気が萎えてしまいます。いちいち上司にお伺いを立てたり、役員会で稟議に回したりなどは権限がある状態とは言えません。あと、困るのは、権限がある様な無い様なはっきりしない場合です。上司は権限を与えると言っておきながら、同時にホウレンソウ(報、連、相)を強いる。これは全く権限がないのと同じです。
別の視点から。第一章で申し上げた自由(権限)とやる気の相関関係について私の経験をお話します。
私が社長をしていた会社は、当初、株主から出向社員を派遣してもらっていました。2年から3年たつとそれら出向社員に面白い現象が起きました。出向社員をもとの会社に戻すと、会社をやめてしまう、という珍事が続いたのです。どの会社も一流企業なのに、預かった社員6人のうち、4人が会社を辞めてしまいました。実は私は辞めた人間の気持がなんとなく解っていました。
実際私に相談しに来る時はすでにやめることを決意していて、本人曰く「会社の歯車の一部のような感じでモチベーションが湧かない」「経営に関していろいろなことに気がつき会社に提案するが上司は解ってくれない」とのことでした。
私が起業した会社は、現場の社員が経営者や会社オーナーの視点が持てるよう、さまざまな仕組みを作り込んでおきました。この仕掛けでの業務プロセスを経験した人は、すべて経営者や会社オーナーの目線になります。つまり権限が無限大。したがって、元の会社に戻っても「いまさら、権限のない一従業員に戻れない」というわけです。
もうひとつ権限について、別の事例を引いてお話ししましょう。
一昨年でしたか、NHKスペシャルでアメリカ軍のITによる進化について分析している特集がありました。
そもそも近代的軍隊組織を完成させたのは、「戦争論」を書いたプロイセン生まれのクラセヴィッツとその弟子でプロイセンの将軍であったモルトケによると言われます。特にモルトケの軍隊編成方法は中央集権組織の原型とされ、組織経営史上の功績と見なされています。
1991年1月に始まる第一次湾岸戦争までは、クラセヴィッツの考えた中央集権的組織がアメリカ軍をはじめ様々な国の軍隊組織のスタンダードでした。この時のアメリカ軍は、すでにIT化が始まっており、参謀本部はITの力であらゆる情報を手元に集め、そこで作戦を立て各戦地に指令を出していました。イギリス軍は当時多国籍軍で戦争展開する為にアメリカ軍の情報装備にキャッチアップするのが大変だったと言っています。
しかし、2003年の3月に始まる第二次湾岸戦争では、アメリカの軍隊編成や作戦行動は一変します。これまでのように情報を中央に集中させるのではなく、個々の戦車などをIT武装し戦場現場に情報を集めます。毎日の作戦行動(たとえば戦車による爆撃)などは各々の戦車内でITによる情報分析をもとに決断され実行されます。
これにより、アメリカ軍の戦場における判断スピードは格段に向上しました。それに加えて、現場同士がITにより、戦況や作戦の成果など、直接情報交換することで「ナレッジマネジメント」の精度が飛躍的に向上しました。
従業員はシステムで管理する。システムはルールなので、ルールの範囲ないで従業員は自由なプロセスで仕事ができる。システムの無い会社はいちいち上司にお伺いを立てなければならず、これではやる気が萎えてしまいます。
第7章のまとめ
現場が立てた目標を意欲的に達成してもらうには、完全な権限委譲が必要。重要事項の上司への事後報告を許容することは、現場での判断を早める。自分自身での意思決定は判断力を高め組織を活性化させる。その為には目標の計数化と業績をいつでもチェック出来るシステムが必要。