Q11.社員全員に基礎的な財務教育を施していますか?
2009-11-12 (木)
管理会計の指標は一つに絞るべきと述べました。ここで新たな問題が発生します。たとえば指標をキャッシュベース、プロジェクトベースのROIに置いたとしましょう。しかし、この説明の意味が分かる人が普通の会社に何人いるでしょうか?そう多くはないと思います。
またたとえば、営業利益とフリーキャッシュフローの折衷案の様なEBITDAにしたとして、社内に分からない人の方が多いはずです。
そう、新たな問題とは、指数はたとえ一つに絞ったとしても、難しい指数では、社員は理解できない、という問題です。では、簡単な指数にすればよいではないかと、思われるかもしれません。しかし現代において業績を測る指数として、分かりやすい「売上高」を採用したとしても、株価や会社の時価総額に全く関係がないことは、少し株をかじったことのある人ならご存知のはずです。意味がないのです。
それでは、上場企業などが対外発表に使っている最新の会計基準に則った決算諸表上の数値、たとえば営業利益などにすればどうでしょう。確かにROIよりは分かりやすいでしょう。社内に指数を浸透させるための第1ステップとしてはいいと思います。
しかし、私が結論として一番いい指数だと思うのはROIもしくはIRRです。その理由を例を用いて説明します。
ここに3つの会社があり、それぞれ1億円の利益を生んだとします。これだけを聞くと、三社とも同じ業績と思いがちですが、実は最初の会社は1億円儲けるのに、資本を100億円使い、次の会社は10億円しか使わなかった。どちらが効率よく儲けているかといえば、2番目の会社です。しかし、ここで3番目の会社が登場します。この会社は10億円の元手で1億儲けたのには変わりありませんが、2番目の会社が1年かけて稼いだものを、この会社は半年で稼いでいます。3番目の会社が一番儲けている事になります。
このような理屈は決算諸表には直接現れません。(C/F計算書を直接法とした場合)しかし、ROIを算出しておくとよく分かります。
実は、いくら投入しどの位の期間でいくら儲けるか、この投資とリターンの比率、つまりROIという名の「利息」の多寡が現代資本主義経済の「いくら儲けたか」の指標としてスタンダードになりつつあるのです。さまざまな面のあるゆる経済活動の目的を一言で表すとすればそれは「利子」ということに収斂されていくと考えています。
さて、利子の計算です。損益計算書や貸借対照表では利子は計算できないのでしょうか?できないこともないのですが、「正確に」というと難しいのです。実は、貸借対照表、損益計算書などは会社の財政状況を分かりやすくは描き出しますが、それは実は手書きの似顔絵のようなもので、写真的ではありません。つまり作者の意向に従ってお化粧出来るのです。エンロンやカネボウなどの事件で発覚までに時間がかかったのは、お化粧を見破るのが簡単ではなかった、からです。以前ある大手監査法人の幹部より話を聞いたことがあります。曰く「社長が経理などに長けており、本気で粉飾決算をしようと思えば、どのような監査法人でも見抜けない。ただそのような会社はキャッシュがなくなり倒産する。キャッシュは嘘をつかない」とのことです。
キャッシュフロー計算書とは、現金のやりとり(流れ)を直接記録して作成します。それ故キャッシュフロー(C/F)は誤魔化しようがありません。ただし欠点としては、C/Fを損益計算書のような見方で見ても1年とか短い期間では、儲かっているかどうかよく分かりません。そこでROIの登場です。
一つのレストランがあります。このお店ではエビを使ったメニューが好評で、これだけで月に売上100万円を稼ぎ出します。年間売上1200万円なので、原価率35%とすると、原価合計は420万円。
また、営業利益率を6%とすると、年間営業利益72万円となります。
このとき、この原価に相当する420万円の使い方を2つのパターンに分けて考えてみましょう。
仮に4月1日に1年分の冷凍エビを420万円で一括仕入れたとします。売上を毎日、普通預金(利率1.2%)に預け、月末に月間売上の59%を販売管理費として支払うとすると、年間の受取利息は3万3千円ほどになります。これを営業利益とあわせ、期末に40%の税を支払うと年間の利益は45万2千円ほどになります。
今度は冷凍エビを毎日仕入れて一日の終わりに現金で仕入れ代を払った場合を考えます。 売上から原価を差し引いて預金することになりますので、この場合年間の受取利息は8千円。しかし、今回は420万円を運用する機会を得ますので、このお金で例えばアジア株のインデックスファンドを買うと年利で4.7%が稼げます。ファンド運用益は19万7千円になり、年間の税引後利益は55万5千円。
ROIはそれぞれ、10.8%と13.2%です。利益率6%の会社で2.6%の差は極めて大きい金額差と成ります。
このように真実を示すC/FをROIという係数で考えると、儲かっているかどうかが分かります。丸山学さんの「社長になる力」の中に「会社とは何か(なぜ会社を設立するのか)」という問いが有ります。後章で詳しく述べますが、この本には会社とは、「投資物件である」と書いてあります。言い得て妙と思います。
C/Fを利息に置き換えると儲けているかどうか分かります。銀行に預けて来年利息でいくら儲かったかと同じです。これらの概念は一見簡単に見えますが、実際に実務で使うには、一定の財務の知識が必要です。(ご興味のある方は私のホームページよりエクセルの計算式を無料でダウンロード出来ます)
伊藤忠商事の社員から聞いたのですが、同社は新入社員から2年間程度は管理部門で財務をみっちりこなし、その後各事業部へ配属するそうです。各事業部の利益管理はもっぱらROI(一つの指標)で行われ、少しでも多くのROIを稼ぐために皆がんばっているとのことです。
このような教育もシステム経営の為のひとつのパーツです。経営システムを運用するためには、考え方の基礎を教育しなければなりません。