Q11.社員全員に基礎的な財務教育を施していますか?

管理会計の指標は一つに絞るべきと述べました。ここで新たな問題が発生します。たとえば指標をキャッシュベース、プロジェクトベースのROIに置いたとしましょう。しかし、この説明の意味が分かる人が普通の会社に何人いるでしょうか?そう多くはないと思います。

またたとえば、営業利益とフリーキャッシュフローの折衷案の様なEBITDAにしたとして、社内に分からない人の方が多いはずです。

そう、新たな問題とは、指数はたとえ一つに絞ったとしても、難しい指数では、社員は理解できない、という問題です。では、簡単な指数にすればよいではないかと、思われるかもしれません。しかし現代において業績を測る指数として、分かりやすい「売上高」を採用したとしても、株価や会社の時価総額に全く関係がないことは、少し株をかじったことのある人ならご存知のはずです。意味がないのです。

それでは、上場企業などが対外発表に使っている最新の会計基準に則った決算諸表上の数値、たとえば営業利益などにすればどうでしょう。確かにROIよりは分かりやすいでしょう。社内に指数を浸透させるための第1ステップとしてはいいと思います。

しかし、私が結論として一番いい指数だと思うのはROIもしくはIRRです。その理由を例を用いて説明します。

ここに3つの会社があり、それぞれ1億円の利益を生んだとします。これだけを聞くと、三社とも同じ業績と思いがちですが、実は最初の会社は1億円儲けるのに、資本を100億円使い、次の会社は10億円しか使わなかった。どちらが効率よく儲けているかといえば、2番目の会社です。しかし、ここで3番目の会社が登場します。この会社は10億円の元手で1億儲けたのには変わりありませんが、2番目の会社が1年かけて稼いだものを、この会社は半年で稼いでいます。3番目の会社が一番儲けている事になります。

このような理屈は決算諸表には直接現れません。(C/F計算書を直接法とした場合)しかし、ROIを算出しておくとよく分かります。

実は、いくら投入しどの位の期間でいくら儲けるか、この投資とリターンの比率、つまりROIという名の「利息」の多寡が現代資本主義経済の「いくら儲けたか」の指標としてスタンダードになりつつあるのです。さまざまな面のあるゆる経済活動の目的を一言で表すとすればそれは「利子」ということに収斂されていくと考えています。

さて、利子の計算です。損益計算書や貸借対照表では利子は計算できないのでしょうか?できないこともないのですが、「正確に」というと難しいのです。実は、貸借対照表、損益計算書などは会社の財政状況を分かりやすくは描き出しますが、それは実は手書きの似顔絵のようなもので、写真的ではありません。つまり作者の意向に従ってお化粧出来るのです。エンロンやカネボウなどの事件で発覚までに時間がかかったのは、お化粧を見破るのが簡単ではなかった、からです。以前ある大手監査法人の幹部より話を聞いたことがあります。曰く「社長が経理などに長けており、本気で粉飾決算をしようと思えば、どのような監査法人でも見抜けない。ただそのような会社はキャッシュがなくなり倒産する。キャッシュは嘘をつかない」とのことです。

キャッシュフロー計算書とは、現金のやりとり(流れ)を直接記録して作成します。それ故キャッシュフロー(C/F)は誤魔化しようがありません。ただし欠点としては、C/Fを損益計算書のような見方で見ても1年とか短い期間では、儲かっているかどうかよく分かりません。そこでROIの登場です。

一つのレストランがあります。このお店ではエビを使ったメニューが好評で、これだけで月に売上100万円を稼ぎ出します。年間売上1200万円なので、原価率35%とすると、原価合計は420万円。

また、営業利益率を6%とすると、年間営業利益72万円となります。

このとき、この原価に相当する420万円の使い方を2つのパターンに分けて考えてみましょう。

仮に4月1日に1年分の冷凍エビを420万円で一括仕入れたとします。売上を毎日、普通預金(利率1.2%)に預け、月末に月間売上の59%を販売管理費として支払うとすると、年間の受取利息は3万3千円ほどになります。これを営業利益とあわせ、期末に40%の税を支払うと年間の利益は45万2千円ほどになります。

今度は冷凍エビを毎日仕入れて一日の終わりに現金で仕入れ代を払った場合を考えます。 売上から原価を差し引いて預金することになりますので、この場合年間の受取利息は8千円。しかし、今回は420万円を運用する機会を得ますので、このお金で例えばアジア株のインデックスファンドを買うと年利で4.7%が稼げます。ファンド運用益は19万7千円になり、年間の税引後利益は55万5千円。

ROIはそれぞれ、10.8%と13.2%です。利益率6%の会社で2.6%の差は極めて大きい金額差と成ります。

このように真実を示すC/FをROIという係数で考えると、儲かっているかどうかが分かります。丸山学さんの「社長になる力」の中に「会社とは何か(なぜ会社を設立するのか)」という問いが有ります。後章で詳しく述べますが、この本には会社とは、「投資物件である」と書いてあります。言い得て妙と思います。

C/Fを利息に置き換えると儲けているかどうか分かります。銀行に預けて来年利息でいくら儲かったかと同じです。これらの概念は一見簡単に見えますが、実際に実務で使うには、一定の財務の知識が必要です。(ご興味のある方は私のホームページよりエクセルの計算式を無料でダウンロード出来ます)

伊藤忠商事の社員から聞いたのですが、同社は新入社員から2年間程度は管理部門で財務をみっちりこなし、その後各事業部へ配属するそうです。各事業部の利益管理はもっぱらROI(一つの指標)で行われ、少しでも多くのROIを稼ぐために皆がんばっているとのことです。

このような教育もシステム経営の為のひとつのパーツです。経営システムを運用するためには、考え方の基礎を教育しなければなりません。

第11章のまとめ

社員に指標を理解してもらう為の基本的な財務教育は必須。

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Q10.数値目標の指数はひとつに絞り込んでいますか?それとも複数ありますか?

さて、管理会計の話に戻ります。ここでもうひとつ大切な質問をします。それは「業績を図る指標は一つですか二つ以上ありますか?」です。意外にダブルスタンダード、トリプルスタンダードの会社が多いことに驚かされます。

私の勤めていたテレビ局はダブルスタンダードの典型でした。編成制作部門の人間は視聴率というスタンダードを追い求め、他方営業など収入部門はお金(それも売り上げ)を追う。またそのように会社から求められていました。

ある尊敬する営業の先輩が当時、当たり前のように言いました。「自分はこれから編成局に転出する。今日まで自分の言ってきたことは、異動日になれば完全否定する。」とのことでした。何だかとっても変な気がしました。

テレビ局ではこの「お金」と「視聴率」というものが常に対立していました。お金を儲けるには、若い女性をターゲットにするのが得策ですが、他の局も皆同じターゲットを狙っています。単に世帯の視聴率を上げるには、熟年をターゲットにした方が有利な場合が多いのです。

このようにお互い後ろに抱えている目標が違うのですからそもそも会話は成立しないのです。また視聴率をお金に換算する方法はありますが計算が複雑なのと、個人視聴率と世帯視聴率という数字のどちらかを使うのかでも話が違ってきますので、結果、話は平行線です。

これをたとえば家作りに例えると、「三人の大工がいて、一人はメートル法、一人は尺貫法、一人はヤード・ボンド法(一インチなど)で変換比率が分からない状況を想像して見てください。家はきっと立ちません。

テレビ局のような極端な例は稀かもしれません。しかし普通の会社でも、お金を追っているのか、シェアを追っているのか、はっきりしてなかったり、仮にお金として、それは、売上のことなのか、営業利益のことなのか、経常利益のことなのか、最終利益のことなのか、統一した見解を持たない会社が意外と多いものです。

最近のはやりでいえば、フリーキャッシュフローやROI(RETURN OF INVESTMENT)と営業利益を両用する会社もあります。この2つの財務指標は似て非成るものです。ROIには時間の観念が入って来ます。両用はしばしば混乱を生み出します。

このように、指数が複数あるということは、「自由」より芽生え、「社是社訓」によって強化され、「管理会計における指数」によって継続性を持った肝心要の社員の「やる気」が、社内で分割されてしまうことを意味します。

目標の達成度を測る指標はひとつにすべきです。仮にそれが、売上であれ、地域のシェアであれ、フリーキャッシュフローであれ、とにかく一つにまとめることです。コンピュータを例に取ると、昔はMSDOSというOSの上にパソコンメーカー各社がいろいろなソフトウェアを用意していて、お互いに互換性が無く、仕事で使うには不便でした。またTCPIPという共通の通信言語が開発されるまでは、複数の通信言語がありコンピュータ同士がつながりませんでした。

指標を一つにすることは、社内の頭脳はお互いに一つの言語でつなぎ合わされ、ナレッジは共有され、社員同士が同じ言語で議論出来ます。

業態によって適切な指標はあると思います。たとえばビデオレンタルショップは地域のシェアを指標にしたり、私の友人が経営する飲食チェーンはROIを指標として使っていたりします。大手の商社もここ数年で、ROIを指標として使い始め業績を上げています。複数年を見る場合はIRRなどの指標もよろしいと思います。

私は、指標の分かりやすさも大切と考えています。この件に関しては後の章に譲ります。

第10章のまとめ

目標までの道のりを示す管理会計上の指標(物差し)は、一つに絞り込むこと。

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Q9.社員全員が、会社全体やチームの業績を月次もしくは日次で把握していますか?

社員に地図とコンパスを与える話をしました。今度はそれを見る頻度です。私は少なくとも一日3回は見てほしい、と思います。自分の位置を常に確認し毎日、小さな改善を積み重ねて欲しいと思います。同じ数字を見ながら社員全員が毎日小さな改善を積み重ねていけば、結果として大きな成果となります。成果を出すとはそうものと私は信じています。

全社の数字と自分のチームの両方を常にチェックできるシステムや環境が大切です。両方見るのは一見2つの目標を追っているようですが、チームの目標が全社目標の部分集合なわけですから、大括りでいえば皆会社の目標を追っているのです。

まれに、自分達のチームの数字のみを気にかけるようシステムを使っている会社があります。このような会社は、皆バラバラで統一感に欠けています。より大きな目標の為に今自分はこの目標を追っているのだ、という心がなければ他のチームのことは他人事となってしまいます。

実は、私が創業した会社も一時期社内がバラバラになってしまいました。私自身会社がバラバラになることのディメリットに気付かなかったのです。このディメリットとは、社内でナレッジマネジメントが出来なくなるということです。つまりノウハウの共有化が進まない。ノウハウの共有なしに、各チームバラバラに業務を進めると、同僚に聞けば一分で済む話を一から研究しノウハウにたどり着くまで一週間かかるということが、頻発し非効率を認識した次第です。

話は変わりますが、ダイエットに一番有効なことはなんでしょうか?私は実は二回ダイエットに成功しています。一回目は高校時代。高校2年生の時に85キロあった体重を約半年で65キロにまで落としました。リバウンドもなく30代後半まで体型をキープしました。30代後半、非常に多忙になりストレス太りだと思いますが、体重がまた80キロを超え、血圧も高くなりました。そこで再度、今回も同じことを実施し、現在体重は65キロで半年以上変動がありません。さて、そのコツとはなんでしょうか?聞けばみなさん、なーんだ、と思われるでしょうが、そのコツとは、「何キロ減量するか具体的に目標を決め、それに要する期間を決め、あとは(ここが一番大切ですが)毎日体重計に乗る。できれば毎日3回乗る。今自分がどの位置にいるかを繰り返し自分に知らしめる」のです。実は、肥っているときには、体重計に乗るのは嫌なものです。でも毎日乗るのです。現実から逃げずに。

もうひとつ意外と効果があったのは、「第三者にダイエットを宣言し、目標体重と期間を告げ、体重チェックに付き合ってもらう」です。私は2番目のダイエットの時に、職場の近くの内科医の先生に付き合ってもらいました。実は、この先生からは、血圧を下げる薬を一生飲むか、体重を身長(メートル表示で170cmの人は、1.7)で2回割り24までがぎりぎりセーフ出来れば19とか20と望ましい。この数値を目指してダイエットするか、どちらかを選択してほいしいと言われていました。私は、ダイエットを選び月に何回か進捗を先生に診てもらったのです。第三者に見られているというのは自分一人だけで数時を見ているより頑張れるものです。

会社の指数管理システムも同じと思います。自分だけで自分のチームの数字を見るよりは、自分たちの数字を他のチームも見ているという感覚が努力を促すものと思います。

数字をチェックする頻度と、皆に自分の業績を見せること、これがモチベーションをさらに高めます。

第9章のまとめ
小マメなチェックが可能で会社全体と自分たちチームが一目瞭然のシステムを作る。毎日体重計に乗るように毎日このシステムを見るのを習慣とする会社は目標を達成する。

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ソシュール理論による外国語学習法

英語が全く駄目だった筆者が言語学者であるソシュールにヒントを得て生み出した2年でTOEIC900点をめざせる全く新しいアプローチの外国語取得方法を紹介します。

髪林孝司プロフィール

髪林孝司

髪林孝司:
システム経営コンサルタント
職歴:
株式会社リクルート
(住宅情報事業部)
株式会社テレビ東京
(経理部、営業部、国際営業部、編成部、マーケティング部、イ ンターネット部などを歴任)

2001年
テレビ東京ブロードバンド企画設立
代表取締役社長就任
(主要株主;テレビ東 京、NTT東日本、シャープ、NECインターチャネル、集英社、角川ホールディングス、 小学館プロダクション、DoCoMoドットコム、ボーダフォン)

2005年
同社東証マザーズ上場

2006年
インターエフエム買収
代表取締役社長就任(兼任)
11年連続赤字累損22億の会 社を1年で4000万弱の黒字会社にターンアラウンド

2008年6月
テレビ東京ブロードバンド取締役退任

略歴:
札幌生まれ
趣味:
ロードバイク
中華料理(家族の食事は私が作っています)
タブラ(インドの打楽器)