Q48.社長の究極的な役割とはどの様なものでしょう?
2010-06-27 (日)
社長業とは何かという問いにはいろいろな答えが帰って来そうです。目標を設定すること、模範を示すこと、リーダーシップをとること、株主に最大のメリットを与えること、等々です。
日本を代表するフレンチレストラン「コートドール」のオーナーシェフ、斉須政雄さん著の「調理場という戦場」という本が有ります。この本は、実は経営書としても優れています。レストランのオーナーのタイプ、経営で言えば社長のタイプを2種類に分けています。一つめは有名な「タイユバンロブション」のジョエルロブションさんタイプ。機能的、合理的で組織的に役割分担がはっきりしていた、いわばピラミッド組織。1人の天才を100人で支えるような組織です。しかしここで斉須さんは居心地が悪かったのか短い間で辞めています。
もう一つは、斉須さんが、ペローさんというオーナーの所で働いていた時に感じた役割。斉須さんは、その店をとっても気に入ったといいます。何よりペローさんの立ち居振る舞いが好きだったそうです。ペローさんは、朝一番にお店に来ます。しかし調理場にはたちません。その代り、掃除をしていたり、窓を磨いていたり、と非常に目立たない仕事をするのが日課です。初めの頃は何をしているのかよく分からなかったそうです。
後に「ペローさんは実は、調理師達やソムリエ、ホールのボーイ達に働きやすい環境を作っているのだ」と、斉須は気づいて来きます。もちろんオーナーシェフですので調理の腕は天下一品なのだけれど、滅多に調理場に立たないそうです。
このところを読んでいて私は、たまに行く駒形のどぜう屋さんのオーナーを思い出します。数百年の歴史を持ち、未だ多くの人に愛される店のオーナーなのですが、実は初めの頃は当主とは気がつきませんでした。この方は、お店のベンチに座り、にこにこしていて一見雑務係の様です。一度北海道から父をこの店に連れて行ったのですが、帰り際にこのおじさんは何気なく父に話しかけ、どこ彼来たのかと問いました。父が北海道から来たのだと答えると、記念写真を撮ってあげましょうと首に下げていたカメラを取り出し、写真を撮ってくれました。住所と名前を書いて店を後にしましたが、後日北海道の父の所に写真と直筆の丁重なお手紙が届き、父も喜んでおりました。そしてその年のお正月には、父の所に年賀状を送っていただきました。この時点で私はただの案内係のおじさんではないなと思いました。ある時仕事で浅草を朝歩いていてこのドジョウ屋さんの前を通りかかると、なんとこのおじさんが従業員の先頭に立ってドジョウの仕込みをしているのが外から見えました。
「セムラーイズム」(あるメキシコの実業家の名前)と言う本に「社長とは何か」という問いが出ていました。この著者は、次の言葉一言で表していました。「社長とはカタリスト(触媒)である」と。ペローさんやドジョウ屋のおじさんの役割は働きやすい環境を作ると言う意味で、カタリストになります。
私の経営のバイブル「ビジョナリーカンパニー」の第一章は「時を告げる人」「時計を作る人」というたとえ話です。時間=判断と置き換えて見てください。「時を告げる人」は自分で物事を何でも判断する経営者。その人が活躍中はいいですが、去った後、会社の繁栄は長続きしないと、歴史が示しています。
一方、自分で判断する替りに、判断力のある人を育て、判断を任せる人のことを「時計を作る人」とたとえます。自分はあまり出しゃばらずに、社員に判断力を身につけさせる。この場合は、自分が去った後も会社は永続して発展するとやはり歴史が証明しています。
時を告げる社長をいただく会社、もう一つは時計を作る(カタリスト的)社長をいただく会社。第17章で見たように、現代は社員1人1人の創意工夫のみが付加価値を生む時代です。これからの時代を生き抜くには社長はカタリストになるべきと思います。
第48章のまとめ
社長の役割はカタリスト(触媒)。自分で判断するより(時を告げるより)、判断力を持つ社員を数多く育てよ。(時計を作れ)