パンドラの箱
2019-11-11 (月)
ベストセラーの自己啓発書「スタンフォードの自分を変える教室」ケリー・マクゴニコル著 原題「Will Power」は意志力に関する本だ。その中に面白い話が出てくる。実験用ラットの脳で快感を感じる部位に電極をつなぐ。レバーを押すとネズミは自分で電流を流すことができる。レバーの足元には熱いシートが強いてあって長居すると足を火傷する仕組みになっている。実験の結果、ネズミは足が焦げてもレバーを押し続けた。
同じ実験を人間にも行った。発作性睡眠障害の患者で突然眠りだす患者に電極をつけて眠らないようにする実験だ。この患者はスイッチを押して、自己刺激を与えたときのことを「 頻繁に、そして時には狂ったようにボタンを押した」にもかかわらず、「もう少しで満足感が得られそうな気がした」が、「とうとう最後まで満足感はえられたかった」そうだ。自己刺激を与えても焦るばかりで少しも楽しくはなかったのだ。この人の行動は快感を覚えているというよりは何かに突き動かされているようであったとのこと。
その後よくよく調べると、その脳の部位は実は快感や幸福を感じる部分ではなく、快感や幸福を予感させる部位であった。ラットの実験でも刺激を与えた脳の部位は報酬系と呼ばれる場所で、多分ラットは「もう一度やれ、今度こそ気持ちよくなるぞ」とレバーを押し続けていたに違いない。
表題のパンドラの箱のパンはギリシャ語で全部の意味でパンドラは「全ての贈り物」という意味だ。お話は、プロメテウスが天界から火を盗んで、人類に与えた事を怒ったゼウスは、すべての災いが詰まったと箱と共に人類で初めての女性であるパンドラをプロメテウスの弟エピメーテウスに送った。プロメテウスはゼウスからの贈り物は受け取るなと言ったが、美しいパンドラを見たエピメーテウスはパンドラを結婚する。パンドラは箱を持たされた時に開けてはいけないと言われていたが、好奇心に負けて、開いてしまう。そうするとあらゆる災いが人類に飛び出てきて、人間は苦しむことになったが、最後にエピルス(希望、期待)が出てくる。寓話のメッセージは「災に満ちりつのが人生だが、幸福への期待があるから生きていける」と言うことらしい。
この話はラットの実験と相通じるものがある。仮に、災いで満ちた人生をラットの熱シートと、幸福への期待は電極レバーだと置き換えれば、人生とは幸福への期待があるから足が焦げながらも生きていく、つまり「もう少し生きて居よう。今までつらい人生だったが、きっといつか幸せになれる」という希望をのみをたよりに生きていくに事なる。虚無的で悲しい考え方かもしれないが、内心同感する人も少なくないのではないだろうか。